遺言書の付言事項について
遺言書には「法定遺言事項」と「付言事項」という、2つの記載事項があります。
法定遺言事項とは法的効力を持つ内容を指し、身分に関することや相続に関すること、財産に関することが該当します。
対して付言事項とは法的効力の持たない内容であり、遺言を残そうと思った経緯や気持ち、相続人に伝えておきたいことなど、遺言者の最後のメッセージとなるものです。
付言事項は法的な効力を持たないため、記載しなくても当然ながら問題はありません。しかしながら自由に書き連ねることができるので、形式にとらわれない、正直な気持ちを残すことが可能です。
また、付言事項には相続によるトラブルを回避する役割もあり、財産の分配方法を決定した経緯や気持ちなどを丁寧に記載することによって相続人が納得できるケースも少なくありません。
遺言書の内容によっては誰かしら傷つくことになるかもしれませんが、付言事項があることで相続人全員が気持ちよく受け入れられるようになるというわけです。
付言事項を記載する際の注意点
付言事項は遺言者が相続人に送る最後のメッセージとなるものですから、否定的ではない、肯定的な文言を紡ぐことが大切です。
読み終えた後にあたたかい気持ちになるような、感謝の気持ちやご家族・ご親族への希望、願い、遺言を残そうと思った経緯、動機などを記載しておくと良いでしょう。
正直な思いを書き連ねるうちに長文になってしまうこともあるかと思いますが、そうなると遺言の趣旨が不明確になりかねません。その場合には付言事項ではなく手紙を用意するというのもひとつの方法です。
付言事項の文例について
付言事項は自由に書くことができますが、いざ記載するとなるとどのような文言にすれば良いのか迷われることもあるかと思います。
以下に付言事項の文例をパターン別にご紹介しますので、遺言書を作成する際のご参考になさってください。
パターン1「妻に感謝の気持ちを伝えたい場合」
〇〇さん、人生という荒波をいつも一緒に乗り越えてくれたこと、本当に感謝しています。私の人生における一番の幸運は、〇〇さんに出会えたことです。
〇〇さんの笑顔が何よりも大好きなので、私が亡くなったとしてもどうかずっと笑顔でいてください。天国からいつまでも見守っています。
パターン2「遺留分の請求を回避したい場合」
〇〇さん、いつもお母さんの面倒をみてくれて本当にありがとう。お母さんには安心した老後を過ごしてもらうために、多くの財産を残すことにしました。
その分、〇〇さんの財産は少ないものとなってしまいますが、思いやりがあり心優しい〇〇さんには理解してもらえることと思います。私の子供として生まれてきた〇〇さんは、私にとって最大の誇りです。今まで本当にありがとう、そして今後もお母さんのことをよろしく頼みます。
パターン3「子の嫁に財産を渡す場合」
息子の嫁である○○さんは、私や妻の介護を嫌な顔ひとつせずに行ってくれました。老人ホームのお世話になることもなく、家族との思い出が詰まった自宅で最後まで過ごすことができたのは、ひとえに〇〇さんのおかげです。
〇〇さんには感謝の気持ちを述べるとともに、財産の一部を残すことにしました。○○さんの頑張りをみていた者なら、理解してくれることと思います。今後も家族全員が良好な関係を築いていくことを心より願っています。
付言事項は遺言書を作成する際に必ず記載しなければならないものではありませんが、記載しておくことで得られるメリットはたくさんあります。
とくに遺言内容によって相続人同士のトラブルが予想される場合には、付言事項を記載しておくことをおすすめいたします。
「親の願いなら尊重しないと」というように、少しの気遣いによって相続人の理解を得やすくなりますので、円満な遺産相続を実現するためにも、ご自分の気持ちをきちんと書き残しておきましょう。