認知症と後見制度
ご自分やご両親が高齢となった場合の心配事として多くの方が挙げられるのは、「認知症の発症」ではないでしょうか。認知症の発症により判断能力が低下すると、さまざまな弊害が起こる可能性があります。
超高齢化社会といわれる現代において、そうした将来の不安に対する備えとして後見制度を検討される方も少なくありません。
ここでは密接な関係にある認知症と後見制度についてご説明いたします。
認知症になると金融資産が凍結される
ご自分やご両親が認知症を発症した場合、所有していた財産はどのようになってしまうのでしょうか。
預貯金などの金融資産については、認知症の事実を金融機関が把握した時点において口座の凍結が行われます。口座の凍結は不正利用を防ぐためのものであり、ご家族やご親族であっても正式な手続きを踏んでからでないと出金することはできません。
判断能力がしっかりとあるうちに何らかの対策を講じていれば良いですが、何もしないまま認知症を発症すると所有していた財産を自由に動かすことができなくなってしまいます。
このような事態を回避するために検討しておくべきなのが「成年後見制度」です。
成年後見制度を利用することにより、認知症を発症した方の財産管理や各種契約などの法律行為を後見人が代行できるようになります。
後見制度を活用する
成年後見制度には「任意後見制度」と「法定後見制度」が設けられています。
任意後見人制度は判断能力が十分ある段階で自ら後見人を指定しておけるのに対し、法定後見制度は判断能力が低下した際に家庭裁判所が後見人等を選任します。
任意後見制度とは
認知症を発症した際の備えとして、判断能力が十分ある段階で誰を後見人にするのか、何を代行してもらうのかをご自分で決めておけるのが「任意後見制度」です。
後見人にはご家族やご親族はもちろんのこと、弁護士や司法書士といった専門家を指定することもできます。
任意後見制度では後見人の指定や代行内容を明記した契約書を公正証書で作成し、「任意後見契約」を結びます。のちにご自分やご両親が認知症を発症したことで判断能力が低下した際には家庭裁判所に対して申し立てを行い、後見人を監督する立場となる任意後見監督人を選任してもらいます。
任意後見監督人は任意後見制度において必ず選任される存在であり、選任されることで任意後見が始まります。任意後見監督人には報酬が発生し、月に大体1~3万円はかかるものと思っておきましょう。
ほかにも、契約書を公正証書で作成する際の費用として約2~3万円かかります。
法定後見制度とは
家庭裁判所に申し立てをすることで後見人を選任してくれるのが「法定後見制度」です。後見人を選任するのはあくまでも家庭裁判所ですので、ご家族やご親族がいたとしても弁護士や司法書士、介護福祉士などの専門家が選ばれるケースもあります。
法定後見制度を利用する場合に注意しなければならないのが、後見人以外の方は財産管理を行えなくなるという点です。ご家族やご親族でも原則として通帳を確認する等の行為ができなくなってしまうため、認知症を発症した方の財産状況が把握できなくなるリスクがあります。
成年後見制度の目的はあくまでも認知症を発症した方の財産を守ることですので、制度を利用した場合にはその方の財産から生活費や教育資金を捻出することは難しいといえるでしょう。
また、ご家族やご親族以外の方が後見人に選任されると、報酬を支払うことになる可能性があります。法定後見制度の効力は対象となる方がご逝去されるまで続きますので、利用する際は慎重に検討しなければなりません。
後見制度の限界
成年後見制度を利用すれば、預貯金の管理や解約、介護保険の契約、不動産の処分、相続手続きなどの行為を、認知症を発症した方の代わりに後見人が行えるようになります。
こうした点からも生前対策の一環として成年後見制度を検討される方は多いですが、後見人にも対応できないことがあると知っておく必要があります。
たとえば、後見制度を利用したとしても以下に挙げるものに関しては対応できません。
- 食事や排せつといった介助行為
- 入院時や入居時の身元保証人になること
- 緊急時の医療行為の判断や同意を行うこと
- 本人の住まいを決定すること
- 婚姻、離婚、養子縁組、遺言における代行 等
成年後見制度には2つの種類がありますが、法定後見制度の場合にはご家族やご親族が財産を把握できなくなる恐れがあります。ご自分やご両親が望む形での認知症対策を講じておきたい、柔軟な対応が取れるようにしたいとお考えの際は「任意後見制度」の利用をおすすめいたします。
ただし、任意後見制度は判断能力が低下してからでは契約の締結ができないため、利用を検討する際は早急に取りかかるよう注意しましょう。